愛の理解ーーこれが原題なのだが、真摯に愛を向ける男性サンス (ユ・ヨンソク) とその愛から逃げようと女性スヨン (ムン・ガヨン) が、お互い惹かれあっているのを感じながらも愛を掴み切れず、そしてお互いを理解しようとしているようで、実はどこか目を背けている・・・悩みもがく二人と周囲の人たちを描いた大人のラブストーリーだ。
愛を理解することはできるのか。
「愛と、利と」作品メモ
ジャンル:メロドラマ
放送年:2022年~2023年
放送局:JTBC
脚本:イ・ソヒョン、イ・ヒョンジョン
主演:ユ・ヨンソク (「ミスター・サンシャイン」「賢い医師生活」)
ムン・ガヨン (「偉大な誘惑者」「女神降臨」)
やはり「悪い女」には惹かれてしまうものなのか。
小説が原作とのこと、どうりでセリフがとても詩的で、いや、むしろ詩的過ぎてなかなか芯を食ったやりとりにならないのがこの作品の特徴とも言える。
サンスとスヨンが二人きりのシーンで相手に質問をするというシチュエーションがいくつかあるのだが、相手からの質問に質問で返す空中戦のようなやりとりに視聴者はやきもきさせられる。
実直なサンスに対して、スヨンという人は(セリフにもあるように)「悪い女」で、とにかく終始笑顔も少なく「陰」な感じ、何度もアタックしてくるサンスに上から目線のセリフを吐き続け、サンスよ、仮にこのスヨンと付き合えたとして、果たして幸せになれるのか??と問いかけたくなる程だ。
このスヨンの言動の背景は、物語の進行と共に描かれていることに気づくのだが、それにしたって、どうしてそこまでサンスの愛から逃げる必要があるのか、正直最後までピンと来なかった。
そんな感じで、エンディングまで完走するのがしんどくなりそうなヒロインのキャラクターなのに、最後まで引っ張っていっていくれたムン・ガヨン。
「女神降臨」で演じた逆境にもめげないポジティブガールとは180度正反対のこのキャラクターを見事に演じたことに拍手を送りたい。
この振り幅は本当にすごい。
詩的な空気感を見事に再現する役者陣。
ムン・ガヨンのみならず、この作品の主要キャラクターを演じた役者さんは皆素晴らしかった。
先述したような詩的な空気感を出すには繊細な演技力が求められると思う。
その中で特筆すべきはサンスを慕う後輩ミギョンを演じたクム・セロクだ。
「五月の青春」で初めてお目にかかった彼女、その時も資産家令嬢ながら学生運動に傾倒する勝気な女性がよく似合っていた。
今回のミギョンは、前半部分の裕福な育ち故の余裕ある気さくな性格から、後半では徐々に嫉妬心や執着心に取りつかれて心のバランスを崩していく姿が非常に印象的だった。
キスシーンを考える。
韓国ドラマを見ていると1作品に1回は出てくるキスシーン。
でも実は「グッとくる」キスシーンは少ないと思っている。
何というか、キスシーンなのに色気がないというか、「リハを重ねた上で一生懸命やってます!」感が透けて見えることが多く、本来山場であるはずのキスシーンなのにあまり琴線に触れてこないのだ。
そんな中で今回の「愛と、利と」におけるサンスとスヨンのキスシーンは久々に「グッとくる」ものであった。それはひとえにサンスというキャラクター、そしてそれを演じたユ・ヨンソクの技量なのだと思う。
ちょっと不器用で朴訥とも言えるサンス、何度もスヨンを諦め別の道を行こうとしたけれども、結局やっぱりスヨンが好きだと気付いた時の、想いがあふれ出すキスは間違いなくこの作品の山場となっていた。
願わくば、ラスト部分はもっと「芯を食った」終わり方にしてほしかったが、空を漂うようなセリフで終わるのはこの作品らしいエンディングなのかもしれない。